「韓国横断の寄留紀行」by 若杉 賢一
車や通信機器などは当たり前に浸透しており、近年エンタメ業界で躍進が目覚ましいお隣の国、韓国。一方で受験の厳しさや財閥一族の存在、兵役など日本とは異なる文化のある韓国をワーケーションの地としました。 デザインや建築、アートにおいて日本とどのような違いがあるのか、ということでソウル、テグ、プサンの3大都市を巡りました。韓国を北西から南東に向かう旅です。
ソウルではZaha Hadid、OMAなどスターアーキテクトによる大型建築物が点在し、付近にかつての王宮などもあり、林立する高層マンションも目立ちます。何気ない建物も、好みは分かれますが、何かしらの意思をもってデザインされ、またその密度が高く、都市のダイナミズムを感じました。現代建築のすぐ近くに朝鮮時代の王宮や古いまちなみが同居し、それが独特の風景を作り出しています。
旅をする中で、目指す先や道中でカフェが思いの外目につくことがわかりました。少し歩くとカフェがあり、日本の2-3倍以上ある感覚です。韓国のカフェ文化について少し調べてみると、習慣としてランチの後にカフェを利用することに加え、社会的には就職難や早期退職の背景から個人事業として始めやすいカフェが増えたそうです。1日40店舗開店しているという情報もありました。余談ですが、チキン屋も多いそうですが、私の視界には入りませんでした。
印象に残ったカフェをいくつかレポートします。
カフェ オニオン 安国店
ソウルの安国にあり、韓屋という伝統的な家屋を改修しているカフェ。屋根のむくりや組物や手先、瓦も日本の寺社仏閣に近い。柱梁が日本のそれより無骨で、丸太、太鼓梁が組まれている。中庭があり、白砂利が敷かれている。出入口の建具はスチールサッシとするあたりも心得ている感じ。座席もバラエティに富んでいた。
大林倉庫ギャラリー
ソウルの聖水洞にあり、大きな倉庫を改修してカフェとギャラリーになっている建築。天井高は6mほど、カウンターや陳列棚もゆったりとたレイアウトになっている。家具の種類は敢えて統一されておらず色んなところから集めたのだろうか。恣意的な場所でなく、家具で座りたい場所を選択ができるところが面白い。
スターバックス・コーヒー 大邱鐘路古宅店
大邸市(テグ)にあるスタバ。こちらも韓屋を改修したカフェ。既存の韓屋に加え、新築で韓屋をつくっている。トイレは別棟で中庭を囲うような配置になっている、エントランス以外にも庭が道路と繋がり、自由に出入りできる設えになっていた。エントランスも兼ねる新築棟側にカウンターがあり、ゆったりとしたレイアウトになっていた。
F1963/テラロサコーヒー
釜山にあるワイヤー工場がリノベーションされた複合文化施設で、レストラン、カフェ、本屋、ギャラリー、竹林の散策路などがあり、釜山ビエンナーレの会場として使われた後に現在の姿になった。工場の特徴を活かしたワイヤーによる空間づくり、鉄製のテーブルや椅子がゆったりと配されている空間はこれまで前述したカフェの最上級版という印象。 親会社と釜山文化財団の協力で生まれた施設で、隣接して現代自動車のギャラリースペースもある。
P.ARK
影島という小島にあるP.ARKは、展示スペースやレストラン、ミーティングスペース、店舗などがある商業施設。駅もなくバスか自動車でしか来れないような場所にあるにも関わらず、沢山の人が訪れていた。周辺は、博物館や学校などが建設中で近年開発が進んでいる地域と見受けられる。Park Cafe & Bakeryは3階にあり、海沿いに建っているので全面開口で見晴らしの良い場所に席が用意され、階段すらも席になるなど、居場所が沢山あるレイアウトになっていて、人工芝だったものの屋外テラスもある。リノベーションのカフェが目立つ中で新築ならではの構成から考えられた空間が新鮮だった。
Momos Coffee 影島店
同じく影島にあるカフェで、より釜山駅に近い港沿いで駅とは橋でもつながっている。造船関連の工場や事務所があり、雑多なまちなみの中に突如デザインされたことがわかる外観が現れる。元倉庫を改修し、中が伺いしれない感じにあえてしている(入口がスチールドア、少ない開口部、サインはエントランスの壁にある)ように見えた。SNSなどの情報でこの場所を目指す人がメインということだろうか。内部は、新規の間仕切り壁などはガラスや白い壁で、焙煎室や豆の倉庫、研修室などが見える設えになっている。さまざまある座席の中で、コーヒーバッグクッションのようなものがあったのが面白い。長いカウンターでレジ、コーヒー提供まで行うのが特徴で、その裏側も見える設計になっている。そのため、食器やストックなども整理したり、スタッフの振る舞いもきちんとしている必要があると思うので挑戦的だが、独特の空間になっていた。 本店は釜山にあり、世界一のバリスタを獲った方がいるとのこと。
旅を終えて
今回の都市を巡る旅で、韓国がデザインやアートなどに対して価値を置いていることと、伝統も守り、それをうまく観光地化していることがわかりました。そのためにお金をかけて物を作る意味がある、という共通認識が少なからずあるのだろうと感じました。また、文化庁や観光庁などの行政、サムスンや現代(ヒョンデ)といった財閥系が文化施設に対して資金を投じていることと、まちなかに小規模なギャラリーが沢山あること、業界におけるトップと裾野双方の充実がその業界を盛り上げていました。それは規模は違えどカフェでも同様です。
どんなにデジタルが発達しても、その場所に赴き、体験、空気を感じること、百聞は一見にしかずとは良く言ったものです。今回の旅を通して、ある物事に広くデザインが介入していること、そして日々その意味を我々は問い、また問われている職業に従事しているという事実にポジティブに気付かされ、勇気をもらいました。反省点として、本当は上記の事を現地の方々、デザイン関連の仕事をされている方々とお話ししてみたかったです。英語ならまだしも韓国語はさっぱりわからないので、それは悔やまれます。次回の展望は非都市、つまり地方の状況を観たいと思います。
注釈:※ 国土面積は日本が37.8万k㎡で韓国は10万k㎡、人口は日本が1.25億人で韓国は5160万人で一回り小さい。それがマーケットの小ささに繋がり、世界へ出る思考が強いと言われる。また、国家が成長していく時代にデジタル社会が浸透しきったあとでタイミングが良かったことも昨今の急成長の要因として考えられる。コンテンツ産業を国策としていることも要因の1つ。
執筆:若杉 賢一
監修:カズ・T・ヨネダ
編集:出原 日向子
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