寄留の所要: 沖縄 [ニュースレター:2023年九月号] / by kaz yoneda

はじめに
我々は、設立されて比較的間もないデザインプラクティスですが、倫理的で責任感がある、包括的な職場環境であるよう努力しています。これは、ほぼ全員のチームメイトがビューロー参加前の職場で経験してきたことから学んだ結果でもあります。人間性を持って所員に接する模範的な建築事務所もあるものの、ほとんどがそうでないのが現実です。「生きがい」を持った建築家やデザイナーが真面目に、丁寧に仕事をするのは、無論言うまでもありません。ですが、私たちもやはり人間です。デザインし、設計し、創造するという行為は、端的に言えば、自己を抽出していく行為だと捉えています。医師や政治家のように多くの人々の生活に直接影響を与えるわけではないかもしれませんが、建築家が創造する空間や建物は、現代社会の営みを豊かにしてくれるインスピレーションを内包し、緊急時には文字通り人命を救う可能性を秘めています。有意義で、美しく、クリティカルな建築物やオブジェを創り出すために、時にはアイデアや知識、発明を自ら捻り出すこの抽出的なプロセスは、アイデアが枯渇しかねない側面を持っています。そのため、可能な限りどんなものでも吸収し、補充することが重要であり、それによって私たちが社会に生み出すものの一貫性やより高い質を創出し続けることができると考えています。日々の活動やありふれた日常から外れることで発見できる異なる視点、新しい世界観、魅力的な人々や場所、人生の気付きに出会うことが可能になると思います。そのひとつの例として、私たちは寄留(きりゅう)の所要を重要視します。日頃から美術館に出かけたり、ギャラリーのオープニングに行ったり、ジムに通ったりと、個人的な気分転換をすることは奨励していますが、日々の仕事や生活の雑多多忙に流されがちです。そこで、ビューローでは、「ワーケーション」という名目のもと、各メンバーがそれぞれ選んだ場所に旅立ちました。ニュースレターでは、ここ数ヵ月間にわたり、各々が訪れた場所をたどり、何を学び、何を発見したかを皆さんとシェアしていきます。これが毎年の恒例行事となり、私たち一人ひとりがより健全で視野の広い人間になり、ビューローが手がけるプロジェクトに貴重な洞察と経験をもたらしてくれることを願っています。トップバッターは、いち早く沖縄で「ワーケーション」した大西さんです。

ホテルアンテルーム那覇の外観写真(作者提供)

「コンテンポラリー・アート・ホテル体験」by 大西香緒
沖縄でのワーケーションでは、2020年にオープンしたばかりの現代アートホテル、ホテルアンテルーム那覇に宿泊しました。ホテルよりもAirbnbで民泊を予約するのが一般的な私にとって、これは新鮮でユニークな体験であり、最新のデザイントレンドについて学ぶ絶好の機会でした。
この体験で得たものをいくつか紹介します!

ホテル/ギャラリー
ホテルに入ると、アートギャラリーに足を踏み入れたような気分になります。広々とした吹き抜けのホールはアート作品に囲まれており、フロントがないため、自分が目指していた建物にいるのかどうか、少し混乱しました。案内板に従ってエレベーターで2階ロビーへ。エレベーターの内部はインフィニティ・ルームのように全面鏡張りで、思わず写真を撮らずにはいられませんでした。エレベーターを降りると美しいオーシャンビューが広がり、カフェカウンターでチェックインを済ませます。上階へ上がる前に、オープンフロアのギャラリーで地元アーティストの作品を見たり、沖縄の工芸について学べます。ホテル内でこのようなアートを体験できるのは、とても贅沢で、文化的にも豊かなものでした。

ホテルアンテルーム那覇の内観写真(作者提供)

アート/建築
エレベーターを待っている間、ギャラリーのパネルの説明を読み、このホテルのデザイン・ディレクションは有名な彫刻家、名和晃平と彼と協働するデザイナーと建築家からなる多分野のクリエイティブ・プラットフォームであるSandwichによるものだと知りました。ファサードのデザインは、名和晃平による「Direction」と名付けられたアート作品に基づいており、アートを建築に融合させる興味深い方法でした。これは、沖縄では一般的な建築材料である花ブロック(装飾的なコンクリート製の風よけブロック)を現代風にアレンジしたものに違いないと思いました。

持続可能性
このホテルで初めて、環境に配慮した数々の実践によって持続可能性を追求する明確な取り組みに気付きました。ペットボトルの代わりに、ホテルの部屋にはガラス製の大きなカラフェが備え付けられており、施設内のウォーターステーションで水を補給できます。無駄なアメニティをなくすため、歯ブラシやタオルなどの製品はロビーで使う分だけ取りにいけます。歯磨き粉が小さな紙のパッケージに入っているのには驚きました。また、使い捨てスリッパの代わりにビーチサンダルも置いてありました。大小にかかわらず、私たちはもっと持続可能な生活をするために、日常生活を変えることができるのだと気付かされました。

様々な持続可能性への取り組み(作者提供)

記憶に残るデザイン
デザイナーとして、ありふれたものの中に配慮の行き届いたデザイン要素に出くわすとワクワクします。このホテルでは、ハウスキーピングのためのドアサインのデザインにまで巧みな方法でありふれたサインが再構築されています。なんと、ドアの裏側にある覗き穴の周りを3つのマグネットがぐるぐると回っているのです。最初はマグネットをどこに置けばいいのかわからず戸惑いましたが、マグネットが外側の部屋番号プレートにフィットしていることに気付きました。ハウスキーピングのドアサインは、通常、他愛のないものですが、この遊び心のあるデザインは、それを楽しく印象的なものに変えたのです。私たちが身体的に触れ、交流するヒューマンスケールの要素をデザインする重要性を再認識させられた体験でした。

ハウスキーピングのためのドアサイン(作者提供)

執筆 (英文):大西 香緒
監修:カズ・T・ヨネダ
編集:出原 日向子

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お付き合いいただきありがとうございました。
それでは、次回をお楽しみに!