オンライン教育が本当にもたらすもの [ニュースレター九月号] / by kaz yoneda

多くの大学生にとって、今年ほど新学期の実感がない年もなかなかないかもしれませんが、日本の大学では夏休みを終えて後期授業がスタートし、アメリカやヨーロッパ諸国では新年度が始まりました。対面授業も戻りつつあるようですが、依然としてオンラインでの講義も少なくありません。オンライン講義の問題点、教育への影響も懸念されてはいますが、今回は建築分野におけるオンライン教育の、半年間で得た所感を共有します。

unnamed-1.jpg

Bureau 0-1の代表、カズ・ヨネダも今月から4つの大学での講義が始まります。前期もいくつかの大学で講義を担当していましたが、これまでと大きく変わったことがいくつもあります。

建築分野の授業は、スタジオと呼ばれる形式がメインでした。各学生が模型や図面を持ち寄り、プレゼンテーションをし、それに対して教員が一人ひとりにフィードバックするという流れです。しかしオンラインになり、この状況は大きく変わりました。模型のディテールよりも、どのアングルで模型を撮影するか?の写真技術に比重が増え、レンダリングや3Dモデルの重要度もより大きくなりました。

学生にとって、これがよい変化かどうかは難しいところです。しかしこの状況は、プロの建築家の仕事でも同じなのです。感染症の影響を受けて、施主へのプレゼンテーションや説明は、オンラインになりました。模型のクオリティよりも、写真やレンダリングが重要になっています。プロの建築家にとってもこの状況は初めてのことで、試行錯誤してどうにかやっている状況です。いま建築におけるオンラインプレゼンテーションの教育を受けている学生たちは、もしかしたら新しい、よりよい手法を生み出すかもしれません。そうなると、これまでの手法で修行を積んできた建築家たちのやり方は、あっという間に古くなるでしょう。

カズは「もしかしたらオンラインでなければ、4つの大学で教えるなんて不可能だったかもしれない」と話します。非常勤講師にとって大学への移動時間は、常に教育への興味との天秤にかけられる事項でした。つまりもしかしたら、移動が一番の懸念点だった教員の授業が受けられるようになる可能性も出てくるのです。

オンライン講義によって不利益を被っている学生も、たしかに多いかもしれません。でもそれはおそらく、制度の問題だろうと考えます。システムさえ整えられれば、日本にいながらして海外の講義を受けたり、データベースを共有したり、いわば簡易的な留学もできるようになるでしょうし、海外教授の招聘も容易になります。

これからの時代に可能な教育とは、どのようなものでしょうか。国境と時間を超えたネットワークが広がりつつあるいま、一つ予感されるのは、誰もがハイレベルな教育にアクセスできる時代の到来です。いままでは特定の階級した受けられなかった教育や知識を、より多くの人が受けられるようになるかもしれません。競争の激化も考えられますが、同じようにコラボレーションや協働も重要になるでしょう。学閥や派閥、理系文系の隔たりなど、前世代の分断を受け継ぐ必要はないのです。

これからまた対面講義が増えたとしても、オンライン講義の知見はなくならないでしょう。分断の世界になっていると言われていますが、新型コロナウイルスをきっかけとしたステイホーム期間は、ある意味で新しい繋がりの機会を私たちに与えてくれたのかもしれません。