賞味期限30年の建築 [ニュースレター:二月号] / by kaz yoneda

日本の住宅は、まるで市場の魚のようです。新鮮でなければ価値がなく、簡単に減価していきます。「欧米諸国では住宅は資本財であり、適切にメンテナンスされていればほぼ永久に価値を維持する。これに対し、日本の住宅は平均して30年程度しか持たない、耐久性のある消費財である。日本の住宅の市場価値は、税務上の減価償却よりもさらに早く下落してしまう」。これは経済学者のリチャード・クー氏とマサヤ・ササキ氏が指摘していることです[1]。

事実として、日本では住宅にGDPの約4%を文字通り捨てています[2]。東京の広大な郊外では、住宅の老朽化に伴い多くが放置されており、相続人は都心部以外の場所に住みたくないか、住宅を取り壊す費用も支払うことができません。日本の不動産専門家による「東京もデトロイトのように空き家の郊外に囲まれてしまうかもしれない」という言葉は大げさに聞こえるかもしれませんが、日本全国には約800万戸の空き家があり、年々増え続けています[3]。

hiraizumi.jpg

しかし日本では人口が減少し、もはやアメリカの1/3程度の人口しかないにも関わらず、アメリカとほぼ同じ数の新築住宅が毎年建てられています[4]。日本では、新築を好む傾向があります。それは所有していた家に価値がないからではなく、誰もが「中古」の家に住みたがらないからです[5]。その代わり余裕があれば、日本人は建築家を雇って「一生もの」の真新しい、斬新な夢の家を設計する人が多くいます。 

この傾向により、日本の若い建築家にも設計のチャンスがもたらされ、印象的なポートフォリオを蓄積し、よくいえば実験的な建築を可能にしてきました。同時にこのような実験の成果は、その生涯、常に所有者の趣味嗜好のみと結びついてきました。そのため、後続の世代がそれらの建築物を維持し、居住することが保証されているとは限りません。一世一代の建築は、その華やかなデビューと同時に、避けられない破壊という運命に常に直面しなければならないのです。一方で、より競争力のある価格帯としては、常にカタログオーダーメイドのプレハブ住宅のオプションがあります。大量生産を得意とする住宅メガ企業による、効率化された仕組みの一部として見事に機能しています。

日本は一億総中流階級の価値観を支持してきた国であると思われていたため、とっくの昔に住宅は消費財以上のものではないと結論づけてきました。住宅は「ありきたりで、便利で、使い捨て」でいいという感覚が根強くありました[6]。シアーズ・カタログ・ホームに成長ホルモンを打って進化させた無印良品は、10年以上にわたってプレミアムな既製住宅をリードしています。国際的な有名企業となっただけでなく、多くの人にとっては「生きる道」にまでなっています。あるいは、言い換えれば、所有したい製品(物質的なオブジェクト)を購入することは少なくなり、ますます私たちは人生の経験、食事、コミュニケーションといった、文化的な体験を購入しています。……私たちは自分の人生の消費者になりつつあるのです [7]。(後編に続く)

今号もお読みいただき、どうもありがとうございました。引き続き、来月号もお読みいただければ幸いです。

執筆(英文):カズ・ヨネダ&グレッグ・セルヴェータ
編集:角尾 舞